簿記3級は、企業のお金の流れを理解するうえで最初のステップとなる資格です。経理や会計の基礎が身につくため、学生や社会人にとっても人気の高い試験です。しかし、初めて学ぶ方にとっては、仕訳や試算表、帳簿のルールなど、慣れない用語やルールに戸惑うこともあるでしょう。
この記事では、簿記3級試験の出題内容から具体的な解き方、効率的な学習法までを、初学者にもわかりやすく解説します。これから受験を目指す方も、学習の途中でつまずいている方も、この記事を読めば合格への道筋がクリアになります!
簿記3級とは?どんな試験なのか
簿記3級は、全国商工会議所が主催する「日商簿記検定試験」の一つで、企業における日々の経理業務を理解し、帳簿を作成できるレベルが求められます。
試験概要
- 試験時間:60分
- 合格基準:100点満点中70点以上
- 出題形式:マークシートではなく、記述式(手書き)
- 実施回数:年3回(6月・11月・2月)または随時実施(ネット試験)
企業会計の基本ルールである「複式簿記」をベースに、現金の出入りや商品の売買など、日常業務でよく発生する取引について学びます。
試験の出題内容と出題形式
簿記3級の試験は、5つの大問に分かれて出題されます。内容は決まっていて、それぞれの分野をしっかり対策しておけば得点源にできます。
第1問:仕訳問題(45点満点)
5つの仕訳が出題され、各9点。
出題範囲:現金取引、掛取引、減価償却、貸倒引当金など。
対策ポイント:
基本的な仕訳パターンを繰り返し解く。パターン暗記ではなく、意味を理解しながら学ぶのが大切です。
第2問:帳簿記入や勘定記入(20点前後)
出題例:補助簿(仕入帳・売上帳)、勘定記入(Tフォーム)
対策ポイント:
帳簿の構成と役割を理解すること。何の取引がどこに記録されるのかを整理すると解きやすくなります。
第3問:試算表の作成(30点前後)
残高試算表や合計試算表が出題されます。
対策ポイント:
仕訳から勘定転記、そして試算表への集計の流れをつかむ。ケアレスミスを防ぐ丁寧さが求められます。
第4問:伝票・訂正仕訳(10点程度)
伝票会計(3伝票制・5伝票制)や、仕訳訂正がテーマになることがあります。
対策ポイント:
伝票会計を扱う企業は減っているものの、出題頻度は高め。ルールを押さえておきましょう。
第5問:精算表・財務諸表(25点前後)
精算表や損益計算書、貸借対照表の作成。
対策ポイント:
数字の流れを図として把握。特に精算表は仕訳→転記→集計→財務諸表という全体像を理解することが大事です。
解き方のコツ:時間配分と手順が合否を分ける
60分という限られた時間内で全問を解くには、戦略が不可欠です。
解く順番のおすすめ
- 第1問(仕訳):得点源。最初に解いて弾みをつける
- 第3問(試算表):配点が高いので早めに取りかかる
- 第5問(精算表):やや難しいが高得点を狙える
- 第2問・第4問:残り時間に合わせて取り組む
時間配分の目安
- 第1問:10〜12分
- 第3問:15〜20分
- 第5問:15分
- 第2問・第4問:合計10〜15分
見直しの時間も確保
最低5分は見直し時間を取ることで、計算ミスを防げます。
よく出る仕訳のパターンと覚え方
仕訳は、解き方というより「反復練習」がカギです。代表的な仕訳を一部紹介します。
取引内容 | 借方 | 貸方 |
---|---|---|
現金で商品を仕入れた | 仕入 | 現金 |
売上を掛けにした | 売掛金 | 売上 |
商品を返品された | 売上 | 売掛金 |
備品を購入 | 備品 | 現金 or 買掛金 |
給料を支払った | 給料 | 現金 |
覚え方のコツ
- 「資産は増えると借方、減ると貸方」
- 「費用は借方、収益は貸方」
この基本原則をベースにすれば、複雑な取引も冷静に整理できます。
第2問:帳簿記入や勘定記入の解き方を徹底解説!
簿記3級の第2問は、帳簿や勘定に関する知識が問われる問題です。毎年、形式は異なりますが、主に以下の3つが出題されます。
- 補助簿(仕入帳・売上帳・現金出納帳など)
- 勘定記入(T勘定)
- 小口現金・伝票会計(補助記帳)
それぞれの出題形式に対して、具体的な解き方を見ていきましょう。
補助簿記入(仕入帳・売上帳など)の解き方
【出題例】
5つの取引が与えられ、仕入帳または売上帳に記入する形式。
【解き方の手順】
- 各取引が「仕入」または「売上」に関係するか確認する
- 現金取引か、掛取引か(買掛金・売掛金)を判別する
- 該当する補助簿に正しい日付・取引先・金額を記入する
【注意点】
- 「仕入帳」や「売上帳」は「掛取引」が対象。現金取引は記録しない場合がある
- 日付や取引先名を省略しない。試験では記述ミスが減点対象に
【具体例】
3月1日 ABC商店より商品¥50,000を掛で仕入れた。
→仕入帳に以下のように記入:
日付:3月1日 取引先:ABC商店 内容:商品仕入 金額:¥50,000
勘定記入(T字勘定)の解き方
【出題例】
数個の取引が与えられ、現金勘定や売掛金勘定などをTフォームで完成させる問題。
【解き方の手順】
- 各取引を仕訳にする(借方・貸方を正確に)
- 該当する勘定に金額と相手勘定を記入
- 借方・貸方の合計を出し、残高を出す
【注意点】
- 借方/貸方の位置を逆に書かないように注意
- 日付・金額・相手勘定の3点セットを正しく書くこと
【具体例】
3月5日:売上¥30,000を現金で受け取った。
→仕訳:現金 30,000 / 売上 30,000
→現金勘定に「借方:3月5日 売上 30,000」
→売上勘定に「貸方:3月5日 現金 30,000」
現金出納帳や小口現金帳の解き方
【出題例】
与えられた数日間の取引を、現金出納帳に記入する問題。
【解き方の手順】
- 各取引を「収入」か「支出」かで分ける
- 日付、摘要(内容)、金額を正確に記入
- 最後に残高を計算する
【注意点】
- 「支払」=支出、「受取」=収入と理解する
- 残高は、前日の残高+収入−支出で計算
- 金額記入の位置(借方/貸方)を間違えないこと
第3問:試算表の作成の解き方を徹底解説!
簿記3級の第3問は、「試算表の作成」に関する問題で、30点前後と配点が高く、合否を左右する重要な問題です。複数の取引を仕訳し、それをもとに各勘定科目の金額を集計する必要があります。
しっかりと手順をおさえ、ケアレスミスを防げば得点源にできる問題です。
試算表とは?
試算表(しさんひょう)は、帳簿に記録された取引の金額が正しく集計されているかを確認するための一覧表です。簿記3級でよく出題されるのは以下の2種類です。
- 合計試算表:各勘定の借方合計・貸方合計を記載
- 残高試算表:各勘定の借方残高・貸方残高を記載
出題形式の例
- 5〜10個程度の取引が与えられる
- それらを仕訳し、勘定記入(T字形式または略式)を行う
- その結果をもとに、試算表の借方・貸方に金額を記入する
解き方の手順(ステップ形式)
ステップ①:与えられた取引をすべて仕訳する
【例題】
(1) 商品¥50,000を仕入れ、代金は掛けとした
→ 仕訳:仕入 50,000 / 買掛金 50,000
【ポイント】
- すべての取引について、仕訳を正しく起こすことが基本です
- 書き間違えを防ぐため、下書き用紙にすべての仕訳を先に書き出すと良い
ステップ②:仕訳から各勘定に金額を転記する(集計)
各勘定科目ごとに、借方・貸方の金額を合計します。
【具体例】
現金勘定:
- 借方(増加)…売上受取 100,000円、貸付金返済 30,000円 →合計:130,000円
- 貸方(減少)…仕入 50,000円、備品購入 20,000円 →合計:70,000円
- 差引残高(借方残高):130,000−70,000=60,000円
【ポイント】
- 同じ勘定科目が複数回出てくるため、合計ミスに注意
- 借方・貸方の区別を間違えないよう、一度仕訳を見返す癖をつけましょう
ステップ③:試算表に転記する
合計試算表なら勘定ごとの借方合計・貸方合計
残高試算表なら借方残高・貸方残高を記入します。
【例】(残高試算表の場合)
勘定科目 | 借方残高 | 貸方残高 |
---|---|---|
現金 | 60,000 | |
売上 | 100,000 | |
仕入 | 50,000 | |
買掛金 | 50,000 | |
資本金 | 500,000 | |
備品 | 20,000 |
【ポイント】
- 「資産」「費用」→基本的に借方残高
- 「負債」「純資産」「収益」→基本的に貸方残高
- 合計の借方・貸方が一致しているか必ず確認!
試算表作成時の注意点
よくあるミス | 解決策 |
---|---|
仕訳の貸借逆 | 各仕訳の意味をしっかり理解する(暗記より理解) |
転記ミス(数字違い) | 一度メモしてから清書、電卓使用で検算 |
勘定科目の重複や記入漏れ | 使った勘定を一覧でチェックする表を用意しておく |
第4問:伝票・訂正仕訳の解き方を徹底解説!
簿記3級の第4問は、伝票会計や訂正仕訳に関する問題が中心です。
配点は10点前後とやや少なめですが、手堅く得点できる分野なので、落とさずに取りたいところです。
出題形式①:伝票会計(3伝票制・5伝票制)
伝票とは、企業の取引内容を記録・管理するための「証拠書類」です。簿記3級では、特に3伝票制がよく出題されます。
【3伝票制とは?】
- 入金伝票:現金が入ったとき
- 出金伝票:現金が出たとき
- 振替伝票:現金を伴わない取引(例:売掛金での取引)
3伝票制の問題の解き方
【手順①】各取引の仕訳を起こす
まず、取引内容を仕訳します。これが解答のベースになります。
【手順②】仕訳から該当する伝票を判断
取引の種類 | 該当伝票 |
---|---|
現金の受取 | 入金伝票 |
現金の支払 | 出金伝票 |
現金を使わない取引 | 振替伝票 |
【具体例】
5月1日 商品¥30,000を現金で販売した
→仕訳:現金30,000 / 売上30,000
→解答:
・入金伝票(現金が増えたから)
・摘要欄:売上
・金額:30,000円
出題形式②:訂正仕訳(ミスの修正)
「間違った仕訳をしてしまった」ケースで、その修正方法を問う問題です。
実務でもよくある処理なので、しっかり覚えておきましょう。
訂正仕訳の解き方の基本
訂正仕訳には主に2種類あります。
①【二重仕訳の訂正】
→ 誤って仕訳を2回してしまった
→ 正しい仕訳を 逆仕訳で1回分取り消す
例:商品¥10,000を仕入れた仕訳を2回してしまった
誤:仕入10,000 / 買掛金10,000(×2)
訂正:買掛金10,000 / 仕入10,000(1回分を逆仕訳)
②【金額ミスの訂正】
→ 金額だけ間違った(例:本当は5,000円→誤って8,000円)
方法:差額を仕訳で調整する
誤:備品8,000 / 現金8,000
正:備品5,000 / 現金5,000
差額:3,000円分を取り消す
→訂正仕訳:現金3,000 / 備品3,000
注意点とミスを防ぐコツ
よくあるミス | 防ぐための対策 |
---|---|
入金・出金伝票を混同する | 「現金が動いたか?」を基準に判断する |
振替伝票を書く場面で入出金伝票を選ぶ | 売掛金・買掛金などの掛取引=振替伝票 |
訂正仕訳で仕訳の方向を間違える | 誤仕訳→正仕訳を両方書き出して比較する習慣を |
第5問:精算表・財務諸表の解き方を徹底解説!
簿記3級の第5問は、**精算表または財務諸表(損益計算書・貸借対照表)**の作成問題です。
配点は25点前後と高く、合格のカギを握る問題の一つです。
出題形式の概要
以下のいずれか、または組み合わせが出題されます:
- 精算表の作成
- 精算表から財務諸表(損益計算書・貸借対照表)を完成させる
- 財務諸表単独の作成(まれ)
精算表とは?
**精算表(せいさんひょう)**とは、決算整理前の試算表に対して、決算整理事項を反映し、損益計算書・貸借対照表の数字を導くための一覧表です。
1枚の表で、以下の3つのステップを同時に整理できます:
- 試算表(決算前の残高)
- 決算整理仕訳(調整)
- 財務諸表(損益・貸借)の値を反映
解き方の手順(5ステップ)
ステップ①:決算整理前残高をそのまま転記
問題文に与えられる「試算表(残高)」の金額を、精算表の「試算表欄」に写します。
【ポイント】
- 「借方」「貸方」を間違えずにそのまま記入
- 合計は一致しているかをチェック(借貸一致が基本)
ステップ②:決算整理仕訳を1つずつ仕訳にする
問題文には「決算整理事項」が5〜6個程度提示されます。それぞれを仕訳にして整理しましょう。
【例】
「当期の保険料のうち¥2,000は翌期分である」
→ 前払費用を使う
→ 仕訳:前払保険料2,000 / 保険料2,000
【ポイント】
- すべての整理事項に対して仕訳を書く癖をつける
- これをもとに「修正記入欄」に転記していきます
ステップ③:修正記入欄に金額を転記
決算整理仕訳を、精算表の「修正記入欄」に記入します。
【ポイント】
- 仕訳の借方は借方欄に、貸方は貸方欄に
- 同じ勘定科目が複数ある場合、合計して記入
ステップ④:損益計算書欄と貸借対照表欄に記入
試算表+修正記入の結果をもとに、それぞれの金額を「損益計算書欄」「貸借対照表欄」に記入します。
【どこに記入するかのルール】
勘定科目 | 記入欄 |
---|---|
売上、仕入、給料、保険料など | 損益計算書欄(費用・収益) |
現金、売掛金、備品など | 貸借対照表欄(資産・負債・資本) |
【ポイント】
- 同じ勘定科目が複数回出てきたら、合算して記入
- 「繰越利益」や「資本金の修正」も忘れずに記載
ステップ⑤:各欄の合計をチェック(借貸一致)
損益計算書欄と貸借対照表欄、それぞれの借方・貸方の合計金額が一致しているか確認します。
【ズレていた場合】
- 修正記入欄の転記ミスがないか
- 収益・費用の勘定が逆に入っていないか
- 試算表の残高記入にミスがないかを再確認しましょう
財務諸表のみが出題される場合の解き方
稀に、精算表ではなく財務諸表(損益計算書や貸借対照表)そのものを作成する問題も出題されます。
【解き方の流れ】
- 与えられた取引情報から仕訳を起こす
- それを勘定に集計する(T勘定 or メモ)
- 費用・収益は損益計算書に、資産・負債・資本は貸借対照表に記入
よくあるミスと対策法
ミス内容 | 対策 |
---|---|
修正記入欄の左右を間違える | 必ず仕訳を紙に書いてから転記 |
同じ勘定科目が2つに分かれる(例:保険料と前払保険料) | 合計・差引を正確に計算する |
損益と貸借の区別ミス | 勘定科目の「性質」を覚える(資産・負債・収益・費用) |
借方・貸方の合計が合わない | 電卓で再集計、1行ずつチェック |
簿記3級の勉強方法とおすすめ教材
勉強時間の目安
一般的には30〜50時間が必要とされます。1日1〜2時間なら、1ヶ月〜2ヶ月で合格レベルに達します。
勉強の流れ
- テキストで全体像を学習
- 仕訳の反復練習(第1問対策)
- 問題集で各大問に慣れる
- 過去問演習で実践力強化
- 模試や予想問題で時間感覚を掴む
おすすめ教材
- 「スッキリわかる 日商簿記3級(TAC)」:初心者向けでわかりやすい
- 「合格テキスト・トレーニングシリーズ(TAC・ネットスクール)」:丁寧で実践的
- YouTube講義(CPAラーニングや簿記系チャンネル):視覚で理解できる
ネット試験(CBT方式)と紙の試験の違い
簿記3級は、近年CBT方式(パソコン上で受験)も選べるようになっています。
ネット試験のメリット
- 受験日を自由に選べる
- 結果がすぐわかる(試験直後に合否判定)
- 全国どこでも受けやすい
紙の試験との違い
- 問題内容はほぼ同じ(形式は一部異なる)
- 電卓の操作や画面スクロールに慣れておくことが重要
まとめ:簿記3級は正しい学習法で確実に合格できる
簿記3級は、独学でも十分に合格が狙える資格です。ただし、内容が体系的である分、最初のうちは理解が難しく感じることもあります。そんなときは「仕訳のパターン化」「流れを図で捉える」「過去問で慣れる」といった勉強法を意識してみてください。
経理職を目指す方はもちろん、会社経営に関心のある方や副業で帳簿管理をする人にも役立つ知識です。まずは、毎日少しずつでも手を動かして、合格を目指していきましょう!