旧暦の月一覧と由来――和風月名の世界

日本の四季や暦文化を語るときに、ふと目を引く“旧暦の月名(和風月名)”という響きがあります。
新暦に慣れた私たちには馴染みが薄いかもしれませんが、それぞれの月名には自然の移ろいや暮らしの知恵が込められており、詩情あふれる世界を感じさせてくれます。
本記事では、旧暦(太陰太陽暦)で使われた月の名称を一覧形式で紹介し、その由来や背景、暮らしへの応用例までを掘り下げていきます。
暦やことば、季節感に興味がある方に、和の世界を感じてもらえる記事を目指します。

1. 旧暦(太陰太陽暦)とは? 現行暦とのズレと意味

まずは旧暦の基礎を簡単に確認しておきましょう。
旧暦とは、月の満ち欠け(月相=月齢)を基準としつつ、太陽の運行も調整する「太陰太陽暦」の方式です。
月の満ち欠けを利用するため、1か月は29日または30日となり、1年は約354日となります。
これを季節とずれないように補正するため、閏月(うるうづき)を挟む年もあります。

このため、旧暦の「3月」は現在の4月~5月頃にあたるなど、新暦とのズレが常にあります。
そのズレが1~2か月程度(あるいは閏月が入る年はもっと複雑)となるため、旧暦の月名の意味を現代の暦と直結させる際には注意が必要です。
(例えば「葉月=葉落ち月」は、新暦の8月では落葉が始まるとは言えず、旧暦8月頃=現代の9月あたりが妥当、など)
暦に込められた自然観と実際の季節感を重ね合わせて見る視点が、旧暦月名の魅力のひとつです。

また、歴史上、暦を記す書物(たとえば江戸時代の『暦注書』など)には、旧暦の月を数字で「一月」「二月」などと記し、それを読み仮名で「むつき」「きさらぎ」などと読ませる方法が一般的で、和風月名が正式に書かれていたわけではないという説もあります。

2. 旧暦月名(和風月名)一覧と読み

まずは、最もよく知られている和風月名を、月順に読みと共に一覧で示します(代表的な呼び名)。
以下の表は、月/和風月名/読みの関係を示したものです:

旧暦月和風月名読み
1月睦月むつき
2月如月きさらぎ
3月弥生やよい
4月卯月うづき
5月皐月さつき
6月水無月みなづき
7月文月ふみづき/ふづき
8月葉月はづき
9月長月ながつき
10月神無月かんなづき
11月霜月しもつき
12月師走しわす

以上が、最も一般に知られている12か月の旧暦名と読み方です。

3. 各月の名称由来と意味(代表説を中心に)

以下に、月ごとに由来・意味や代表的な説を紹介します。
(異説も多いため、「説のひとつ」として記しています)

1月:睦月(むつき)

「親しい・仲睦まじい」意の「睦び(むつび)」から。
正月に親族・知人が集まり、和やかに過ごす様子を表す月名とされています。
別称としては「生月(うむつき)」「太郎月」「早緑月」なども挙げられます。

2月:如月(きさらぎ)

最も有名な説は「衣(きぬ)更に着る(さらぎ)」=寒さ残り、重ね着をする月、という意味。
他に、春めく気配が更に来る、草木が芽吹き始める意味の「生更ぎ」説、「気更来(きさらぎ)」説などがあります。
別称として「梅見月」「雪解月」「木芽月」などが使われることもあります。

3月:弥生(やよい)

「弥(いや)」は「ますます・いよいよ」の意、「生(おい)」は「生い茂る」の意味。
「草木がいよいよ茂る月」という意味合いとされています。
別称には「桜月」「花見月」「桃月」などがあります。

4月:卯月(うづき)

「卯の花(ウツギ)の花が咲く月」という意味の説が一般的。
また、「植月(うえづき)」=田を植える月、という説もあります。
別称には「卯花月」「花残月」などがあります。

5月:皐月(さつき)

「早苗月(さなえづき)」が転じて「さつき」となったとする説が有名で、田植えの季節という意味が含まれます。
また、「神にささげる稲」という意味を持つ「皐(さつ)」という字を当てた説もあります。
別称には「菖蒲月」「橘月」など。

6月:水無月(みなづき)

この月名はやや複雑で、解釈がいくつかあります。
代表的な説として、「水無月」の「無」は「の」=連体助詞的用法で、「水の月」の意味であるとする説。
これは、田んぼに水を引く月だからという説と整合性があります。
一方、「水が無い月」=水枯れする月という説もあって、梅雨明け後の乾燥期を意識した考え方とされます。
その他、「皆仕尽(みなしつき:みんなの仕事を尽くす)」が転じたという説も知られています。
別称には「鳴神月(かみなりづき)」「風待月(かぜまちづき)」などが挙げられます。

7月:文月(ふみづき/ふづき)

七夕の行事で短冊に詩歌を書くことから「文披月(ふみひらきづき)」と呼ばれた説、稲の穂が実る「穂含月(ほふみづき)」説などがあります。
これらが転じて「文月」という名前になったとされます。
別称として「七夕月」「七夜月」「愛逢月」などもあります。

8月:葉月(はづき)

「葉落ち月(はおちづき)」=木々の葉が落ち始める月、という説が代表的です.
また、「穂張月(ほはりづき)」=稲の穂が張る月とする説もあります。
別称には「月見月(つきみづき)」「紅染月(べにそめづき)」などがあります.

9月:長月(ながつき)

「夜長月(よながづき)」=夜が長くなる月、という意味が一般的です.
別称には「寒夜月」「菊月」などもあります.

10月:神無月(かんなづき)

この月名にはもっとも有名な神話的解釈があります。すなわち、日本全国の神々が出雲に集まるため、各地では「神無(かみなし)月」になる、という説。
ただし、地域によっては「神有月(かみありづき)」と呼ぶこともあります(出雲地方など).
また、「神嘗月(かんなめづき)」=新穀を神に捧げる月の意味ともされます.

11月:霜月(しもつき)

寒さが進み、霜が降り始める月という意味から「霜月」となったとされます.
別称には「霜降月」「枯葉月」などがあります.

12月:師走(しわす)

「師も走るほど忙しい月」という語感からの解釈が有名で、仏教僧(僧侶=師)が年末に忙しく動き回る、または年末年始の準備で誰もが忙しい様子を表すともいわれます.
別称には「歳末月」「冬籠月」なども見られます.

4. 異称・別称・雅称の世界

和風月名には、上記の代表名以外にも多くの異称・別称・雅称(雅な名前)が存在します。
たとえば、「孟春(もうしゅん)」「建寅月」「霞初月」などが1月の別称に含まれます。
同様に、「卯月」には「花残月」「乾梅」など、「皐月」には「菖蒲月」「早苗月」など多数の別称があります。
また、月名の別称を複数組み合わせて詩的に使うこともあり、たとえば「初春月」「仲春月」「晩春月」など四季の構成を含めた語彙もあります。
こうした別称を知ると、古典文学や詩歌、俳句、和歌などで用いられる月名表現の奥行きを感じられます。

5. 旧暦月名を暮らしや表現に活かす方法

旧暦月名は、ただ「古風」という趣を楽しむだけでなく、現代の暮らしの中にも取り入れることができます。以下はそのアイデア例です。

  • 俳句・短歌・詩やエッセイで使う
     「皐月の風」「水無月の夏」「長月の宵」など、月名を入れることで季節感を高めやすくなります。
  • 月名表を家に飾る、暦とセットにする
     手帳やカレンダーに和風月名を併記したり、月の名称と意味を掲載したポスターを貼ることで、月替わりの風情を感じられます。
  • 月名をテーマにしたイベント・ワークショップ
     たとえば「文月の俳句会」「葉月の月見会」など、月名に合わせたテーマを設けると趣深い催しになります。
  • 季節感の演出
     茶会、和菓子、照明、花飾りなどを月名に合わせて演出すると、和の情緒が深まります。
  • SNSやブログの月次タイトルに使う
     「○○の皐月便り」「葉月の記録」など、月名を添えると文章に古風で美しい余韻が生まれます。

6. 注意点と現代的な見方

旧暦月名を使う際には、いくつか注意したい点があります:

  • 暦ずれを意識すること
     旧暦月名は新暦と約1〜2ヶ月ずれているため、「皐月=5月」「葉月=8月」などと単純に対応させるのは誤解を生む場合があります。暦を使う際には「旧暦何月か」を明示したほうが安全です。
  • 地域変異や異説
     月名や別称には、地域差・時代差・伝承のブレが多くあります。ひとつの説を断定して扱う際は注意が必要です。
  • 過度なロマン化に注意
     旧暦月名には詩情がありますが、あくまで人びとの感性による命名であり、科学的・天文学的な裏付けがあるわけではありません。表現を楽しむ視点と、事実・由来を分けて伝える配慮があると良いでしょう。

7. まとめ:和風月名が教えてくれるもの

旧暦の月名は、日本人が長年かけて自然との関わりを見つめ、月の満ち欠けや季節の変化を暮らしに取り入れてきた証しともいえます。
月名ひとつを取っても、それが語る物語や意味を探ることは、暦文化・言葉の歴史・自然観へのまなざしを深めることにつながります。

現代でも、月名を使った表現や暮らしの工夫を取り入れることで、日々の時間がちょっとした詩になるかもしれません。
本記事を契機に、旧暦月名を眺めて、自分なりの月名表現を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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