契約書を作成する際に見落としがちなのが「損害賠償条項」です。取引の相手が契約違反をした場合や、予期せぬ損害が発生した場合、適切な損害賠償の取り決めがなければ、泣き寝入りになる可能性もあります。この記事では、損害賠償条項の意味や目的、盛り込むべき内容、注意点を解説し、実務で使える例文を多数紹介します。契約書を作成・確認するすべての人に役立つ内容となっています。
損害賠償条項とは?その目的と役割
契約書における損害賠償条項とは、契約違反などにより生じた損害を、どのように補償するかを明記する部分です。
たとえば、納期遅延や情報漏洩、提供した商品やサービスに瑕疵があった場合などに、損害が発生した当事者がどこまで、どのような形で賠償を請求できるかが明確になります。
この条項を明文化しておくことで、トラブルが発生した際に当事者間での責任分担を明確にし、訴訟リスクを減らすことができます。
損害賠償条項に盛り込むべき基本要素
損害賠償条項を契約書に入れる際は、以下のような項目を明確にしておく必要があります。
- 賠償の範囲:直接損害・間接損害・逸失利益を含むかどうか
- 賠償の上限額:無制限ではなく、取引額の範囲に限定することもある
- 賠償義務の発生条件:故意・過失がある場合に限定するかどうか
- 通知義務:損害が発生した場合の通知期限を設けるかどうか
これらの点を明文化することで、どちらか一方に不当な負担がかかることを防げます。
実務で使える損害賠償条項の例文
以下は、実際の契約書でよく使用される損害賠償条項の例文です。目的や状況に応じて使い分けることが可能です。
一般的な損害賠償条項(スタンダード)
甲および乙は、本契約に違反し、相手方に損害を与えた場合、当該損害を賠償するものとする。
過失・故意を限定するパターン
甲および乙は、本契約の履行に際して故意または重大な過失により相手方に損害を与えた場合に限り、その損害を賠償する責任を負うものとする。
賠償額に上限を設けるパターン
賠償額は、当該契約に基づく取引金額を上限とするものとする。但し、当事者に故意または重過失がある場合はこの限りでない。
間接損害・逸失利益を除外するパターン
当事者は、相手方に対して、特別損害、間接損害、逸失利益については、たとえその可能性について通知を受けていた場合でも、責任を負わないものとする。
注意が必要な損害賠償条項の落とし穴
損害賠償条項を契約書に盛り込む際には、以下のような点に注意が必要です。
- あいまいな表現の回避:たとえば「著しい損害」などの表現では、解釈が分かれてしまうため、トラブルの元になります。
- 実現可能性の確認:契約金額より高額な損害賠償を請求できる内容は、現実的に履行が難しく、契約自体が無効とされる可能性もあります。
- 一方的な内容は避ける:一方の責任だけを強調した条項は、後々に契約トラブルに発展するリスクがあります。
ケース別:損害賠償条項のアレンジ例
業種や契約内容によって損害賠償条項を工夫することで、より実務に即した契約書を作成できます。
IT業界向け
本契約に関連して甲が開発・提供するシステムに起因する障害により乙に損害が生じた場合、甲は当該障害の原因を究明し、善処するものとする。ただし、逸失利益に関してはその賠償義務を負わない。
建設業界向け
本契約に基づく工事の施工に関し、乙の故意または重大な過失により第三者に損害を与えた場合、乙はこれを賠償するものとし、甲に生じた損害についても同様とする。
業務委託契約向け
甲が本契約に基づく業務の遂行において、乙に損害を与えた場合、甲は乙に対して直接かつ通常の損害に限り、損害賠償責任を負うものとする。
損害賠償条項を設けるメリットと法的リスク
損害賠償条項を設けることで、以下のようなメリットがあります。
- 契約違反が起きた際の行動指針が明確になる
- トラブルが起きた場合に裁判などの対応がしやすくなる
- 契約リスクを事前に軽減できる
ただし、過剰な制限や一方に不利益な内容は、「消費者契約法」や「民法」によって無効とされる可能性もあるため、内容は慎重に検討する必要があります。
まとめ:損害賠償条項で契約リスクを最小限に
損害賠償条項は、契約書の中でも非常に重要な位置を占めています。あらかじめ明確に取り決めておくことで、万一のトラブルに備えることができます。契約の目的や取引相手との関係性に応じて、適切な表現を選び、双方が納得できる内容に仕上げることが大切です。
契約書を作成・チェックする際には、今回紹介した例文や注意点を参考にし、安心・安全なビジネスを築いていきましょう。