売掛金を回収する場面では、「銀行振込なのか現金なのか」「振込手数料が差し引かれているのか」「早期入金割引(売上割引)があるのか」「買掛金との相殺なのか」など、状況によって仕訳が細かく変わります。
本記事では、日常実務で頻出する回収パターンを網羅し、借方/貸方をそのまま転記できる具体例で整理しました。外貨建ての売掛金、貸倒引当金を計上していた場合、ファクタリングを使った場合まで幅広くカバーします。新人経理の方はもちろん、復習したい実務担当者の方にも役立つよう、ポイントとミスしやすい箇所を丁寧に解説します。
売掛金回収時の基本仕訳(銀行振込・現金)
1. 銀行振込で全額入金された(手数料なし)
- 売掛金10,000円を普通預金で回収した
仕訳
(借)普通預金 10,000 / (貸)売掛金 10,000
2. 現金で回収した
- 売掛金50,000円を現金で回収した
仕訳
(借)現金 50,000 / (貸)売掛金 50,000
ポイント
- 入金口座が複数ある会社では、**どの口座に入金されたか(普通預金・当座預金など)**を必ず確認して勘定科目を選びましょう。
振込手数料が差し引かれていた場合
取引先からの入金額が売掛金額 − 振込手数料となっているケースは非常に多いです。自社負担の場合、差し引かれた手数料を「支払手数料」等で処理します。
例:売掛金10,000円、振込手数料330円差引で9,670円が普通預金に入金
仕訳
(借)普通預金 9,670
(借)支払手数料 330 / (貸)売掛金 10,000
よくある間違い
- 入金額9,670円だけを見て、売掛金と一致しないまま処理してしまう。
- 勘定科目を「雑費」などで処理してしまう(社内ポリシーで許容する場合もありますが、原則は支払手数料などで明確化)。
早期入金割引(売上割引)がある場合
早期回収のインセンティブとして売上割引(対価の返還等)が設定されている場合、割引分は「売上割引」で処理するのが一般的です。
例:売掛金10,000円のうち、早期入金割引100円を差し引いて入金(現金9,900円)
仕訳
(借)現金 9,900
(借)売上割引 100 / (貸)売掛金 10,000
ポイント
- 売上割引は、売上高のマイナス科目(対価の返還等)として扱われ、消費税の課税・不課税の取扱いが「対価の返還等」に該当するかどうかで変わるため、インボイス制度下では適切なインボイスの保存・区分経理が必要です(詳細は後述)。
一部入金・分割回収の場合
例:売掛金100,000円のうち、30,000円のみ普通預金に入金
仕訳
(借)普通預金 30,000 / (貸)売掛金 30,000
残額70,000円は売掛金として帳簿に残り、後日回収します。
ポイント
- 消し込みの基準を明確にしておく(どの請求書分に充当したのか、またはFIFO/請求書番号基準など)。
- 消し込みミスを防ぐため、請求管理システムや補助科目の活用が有効です。
相殺(相互債権の消し込み)を行う場合
仕入先でもある取引先に対して、売掛金と買掛金を相殺することがあります。
例:売掛金100,000円、同社への買掛金70,000円を相殺し、残額30,000円が入金
- 相殺部分の処理
(借)買掛金 70,000 / (貸)売掛金 70,000
- 残額入金の処理
(借)普通預金 30,000 / (貸)売掛金 30,000
ポイント
- 相殺合意書や相殺通知書など、相殺の事実を裏付ける証憑を残しておきましょう。
外貨建て売掛金の回収(為替差損益)
外貨建ての売掛金は、期末や回収時に為替レートの変動によって評価差額が発生します。回収時点での円換算額と帳簿価額との差額は「為替差益/為替差損」で処理します。
例:売掛金USD1,000、計上時@¥130(130,000円)→回収時@¥135(135,000円)で普通預金入金
仕訳
(借)普通預金 135,000
/ (貸)売掛金 130,000
/ (貸)為替差益 5,000
※ 円安方向に動いたため、為替差益が発生
逆に円高になった場合
- 帳簿価額より入金額が少なくなり、差額は「為替差損(借方)」で処理します。
貸倒引当金を計上していた債権を回収した場合
期末に貸倒引当金を計上していた売掛金を翌期に回収する場合、回収時の仕訳自体は通常と同じです。ただし、決算整理仕訳との対応関係を把握しておく必要があります。
例:売掛金100,000円(貸倒引当金1,000円を計上済)を全額回収
回収時の仕訳
(借)普通預金 100,000 / (貸)売掛金 100,000
ポイント
- 決算整理で計上した貸倒引当金の戻入は、**翌期首の戻入処理(貸倒引当金繰入額の減少)**で調整されるのが一般的です(会計方針による)。
ファクタリングを利用した場合(参考)
売掛金の早期資金化のためにファクタリング(譲渡)を行う場合、**償還請求権(ノンリコース/リコース)**の有無で処理が異なります。ここでは簡略に示します。
1. ノンリコース(償還請求権なし)で売掛金を譲渡し、手数料を差し引かれて入金
- 売掛金1,000,000円
- 手数料20,000円差引で現金980,000円入金
仕訳(例)
(借)現金 980,000
(借)売却損 20,000 / (貸)売掛金 1,000,000
2. リコース(償還請求権あり)の場合
- 手数料を「支払手数料」等で処理し、売掛金を保有し続ける形(借入金計上など)をとる場合があります。契約内容・会計基準に従ってください。
実務でよくあるミスとチェックリスト
よくあるミス
- 入金額と売掛金額が一致しないのに、そのまま消し込む(手数料や割引の存在を見落とす)。
- 相殺処理を単一仕訳で一括処理してしまい、後でトレースできない。
- 外貨売掛金の為替差損益を計上し忘れる。
まとめ
売掛金回収時の仕訳は、「いくら入金されたか」だけでなく、「なぜ一致しないのか(手数料・割引・相殺・外貨差損益など)」を見抜くことが重要です。インボイス制度による消費税処理の厳格化も進む中、証憑の保存・区分経理・補助科目による消し込みの精度を高めることで、決算時の差異や修正を大幅に減らせます。
この記事のテンプレートを手元に置き、状況ごとに当てはめながら仕訳を行えば、売掛金回収に関する実務は一気にスムーズになります。疑問点や特殊なケースがあれば、会計基準や税務上の取扱いを確認しつつ、自社の会計方針と整合させて運用してください。