Exchange Onlineを利用している企業では、組織の成長に伴いアドレス帳の管理が複雑になっていきます。部門ごと、支店ごと、役職ごとにユーザーを整理したい場合、階層型アドレス帳(Hierarchical Address Book:HAB)を導入することで、見やすく使いやすい構成にすることができます。
この記事では、Exchange Onlineにおける階層型アドレス帳の設計と実装方法を、PowerShellを使って丁寧に解説します。導入時の注意点や運用のコツもあわせて紹介するので、情報システム部門の担当者必見の内容です。
階層型アドレス帳(HAB)とは?
階層型アドレス帳とは、Exchangeで使用できるアドレス帳の表示形式で、組織の構造に沿ったツリー状の表示を可能にします。通常のグローバルアドレス帳(GAL)は一覧形式ですが、HABでは「会社名 > 部門 > チーム > ユーザー」のように視覚的に分類されて表示されるのが特徴です。
HABの導入により、以下のメリットがあります。
- 部門やチーム単位でユーザーを簡単に探せる
- 新入社員でもアドレス帳の構成が理解しやすい
- 部署ごとの連携がスムーズになる
Exchange OnlineでHABを利用する前提条件
Exchange Onlineでは、オンプレミス版Exchangeと異なり、HABの管理はPowerShell(Exchange Online PowerShell v2)で行います。以下が前提条件です。
- Microsoft 365 管理者権限(Exchange管理者)
- Exchange Online PowerShell モジュールのインストール
- HABを構成するための配布グループ(Mail-enabled Security Group)を事前に用意
- すべての対象ユーザーがグローバルアドレス帳に含まれていること
HABの設計を考える|階層構造の整理
HABの構成を考える前に、組織の構造図をもとに、どのような階層にするかを決定します。たとえば、以下のような構成が考えられます。
株式会社ABC(トップグループ)
├─ 営業部(第1階層)
│ ├─ 東京営業課(第2階層)
│ └─ 大阪営業課(第2階層)
└─ 技術部(第1階層)
├─ 開発課(第2階層)
└─ 保守課(第2階層)
上記の階層をExchange Onlineで実現するために、それぞれに対応する配布グループを作成しておきます。
PowerShellでのHAB構築手順
1. Exchange Online PowerShellへの接続
Connect-ExchangeOnline -UserPrincipalName admin@yourdomain.com
2. HABのトップレベルグループを作成
New-DistributionGroup -Name "株式会社ABC" -DisplayName "株式会社ABC" -Alias "ABC_Company" -OrganizationalUnit "Users" -Type Distribution
3. HABのサブグループを作成(営業部、技術部など)
New-DistributionGroup -Name "営業部" -DisplayName "営業部" -Alias "SalesDept" -ManagedBy "ABC_Company" -Type Distribution
New-DistributionGroup -Name "技術部" -DisplayName "技術部" -Alias "TechDept" -ManagedBy "ABC_Company" -Type Distribution
4. HABの第2階層を作成(課単位)
New-DistributionGroup -Name "東京営業課" -DisplayName "東京営業課" -Alias "TokyoSales" -ManagedBy "SalesDept"
New-DistributionGroup -Name "大阪営業課" -DisplayName "大阪営業課" -Alias "OsakaSales" -ManagedBy "SalesDept"
5. ユーザーをグループに追加
Add-DistributionGroupMember -Identity "東京営業課" -Member "tanaka@yourdomain.com"
Add-DistributionGroupMember -Identity "大阪営業課" -Member "suzuki@yourdomain.com"
6. HABを有効にする
HABのルートとなるトップレベルグループに「IsHierarchicalGroup」属性を追加し、組織でのHABルートとして登録します。
Set-OrganizationConfig -HierarchicalAddressBookRoot "株式会社ABC"
Set-Group -Identity "株式会社ABC" -IsHierarchicalGroup $true
Set-Group -Identity "営業部" -IsHierarchicalGroup $true
Set-Group -Identity "技術部" -IsHierarchicalGroup $true
Set-Group -Identity "東京営業課" -IsHierarchicalGroup $true
Set-Group -Identity "大阪営業課" -IsHierarchicalGroup $true
OutlookでのHABの表示確認
HABの設定が正しく反映されていれば、Outlook クライアント上で「アドレス帳」→「すべてのアドレス帳」から「階層型アドレス帳」が選択できるようになります。展開すると設定した構造がそのまま表示され、ユーザーを容易に検索可能です。
運用上の注意点と管理のコツ
- 動的配布グループはHABに使用できません
HABでは通常の配布グループを使う必要があります。 - 階層が深すぎると管理が煩雑になる
実務では3階層以内が望ましく、わかりやすさを優先しましょう。 - 役職ごとの分類も可能
例えば「経営層」「部長職」「一般社員」などの属性で階層を作ることもできます。 - グループ管理者を適切に割り当てる
「ManagedBy」属性で、管理者を設定しておくと権限委譲が可能です。
まとめ|HABでアドレス帳の視認性を大幅アップ
Exchange Onlineで階層型アドレス帳を導入することで、ユーザーの検索性や利便性が大幅に向上します。特に大規模な組織や複数拠点がある企業では、HABの導入は業務効率の向上に貢献します。
構築にはPowerShellの操作が必要ですが、基本的なコマンドだけで設計から導入まで完了可能です。本記事を参考に、自社の組織構造に合ったHABの導入を検討してみてください。