11月の扉が開く1日。日常の中ではあまり意識されないかもしれませんが、この日は灯りを導く「灯台」、声なき文字を伝える「点字」、愛される存在としての「犬」、そして暮らしを支える「計量」など、多彩なテーマの記念日が重なっています。こうした記念日は、日常の片隅にある気づきを呼び起こしたり、過去からの文化的・社会的背景を映し出したりするものです。今日は、11月1日に制定された記念日を5つ厳選して、その由来や現代における意義を紐解いてみたいと思います。
灯台記念日 ― 海と灯りを照らす灯台の歴史
11月1日は「灯台記念日」とされています。日本におけるこの記念日は、明治元年(1868年)11月1日に、神奈川県・横須賀市で日本最初の洋式灯台である観音埼灯台が起工されたことに由来します。
灯台は、夜間や悪天候時に海上の船に目印を提示し、海難事故を防ぐ役割を担ってきました。特に明治期の開国以降、日本は海運・貿易を発展させようとする中で、沿岸航路の安全確保が急務とされました。観音埼灯台の建設は、そのような近代化推進と安全保障の意志を映すものだったといえます。
今日では、灯台そのものが役割を終えるものもありますが、歴史的・文化的遺構として保存・活用されるものも少なくありません。灯台記念日は、海と共に歩んできた歴史を振り返り、航海技術や灯台技術の変遷を学ぶきっかけとしても機能します。
また、灯台は象徴的な存在として「導く」「道標」「安全な光」というイメージを持ち、本や詩歌、美術作品などでもモチーフにされてきました。日常生活の中で、灯り・導きという視点を見つめ直す日にできるかもしれません。
日本点字制定記念日 ― 点字がつなぐ文字と世界
11月1日は「点字の日」「日本点字制定記念日」としても知られています。
日本語の点字が正式に採用されたのは、明治23年(1890年)11月1日のことです。当時、欧米で使われていたローマ字式点字をそのまま流用する案もありましたが、日本語仮名と相性がよく、日本語として読み書きしやすい方式を模索する動きがありました。東京盲唖学校(現・盲学校)関係者らが研究を重ね、複数案から「石川案」が選定され、この日が日本語点字の公式な制定日となりました。
この記念日は、視覚に障がいのある人々の表現・読解力の向上、点字普及の意義を広める機会とされています。全国で点字講座、点字図書館の開放、点字使用推進のイベントなどが催されます。
また近年、デジタル化・ICT技術の進展により、点字端末・音声読み上げソフト・スクリーンリーダーといった代替手段も発展しています。ただ、それでも「点字」が持つ触覚的・身体性を通じた文字の実感や、読み書きの主体性は貴重な価値を持っています。点字制定記念日は、視覚障がい者支援やアクセシビリティ(障がいのある人にも使いやすい環境づくり)を改めて意識する機会にもなるでしょう。
犬の日 ― 「ワンワンワン」の呼びかけにこめられた思い
11月1日は「犬の日」として親しまれています。
この記念日は、犬の鳴き声「ワン(1)ワン(1)ワン(1)」という語呂合わせに由来しており、ペットフード業界など複数団体が1987年(昭和62年)に制定しました。
「犬は人の良き友」「伴侶動物」として、私たちの暮らしに寄り添う存在。犬の日は、犬を愛する心や正しい飼育マナー、ペット動物福祉について考える日とされています。例えば、動物愛護団体がイベントを開いたり、里親募集や保護犬の支援活動が行われたりすることもあります。
また、犬の日をきっかけに、散歩をしつつ地域を見直したり、ペットに関わる法律・条例を知ったりする機会とすることもできます。人と動物が共に暮らす社会を、持続可能なものにする視点を育てる日です。
計量記念日 ― くらしを支える “はかる” という尺度
11月1日は「計量記念日」にも定められています。
この記念日は、もともと通商産業省(現・経済産業省)が1952年(昭和27年)に制定しましたが、1993年(平成5年)に新しい計量法が施行されたことを機に、従来の6月7日から11月1日に移されました。
「計量」とは、重さ・長さ・体積・温度などの物理的尺度をきちんと定め、正確に測定・表示することを指します。日常の取引、品質保証、科学実験、産業機器など、さまざまな場面で信頼性を支える要素です。
この記念日には、計量思想の普及、測定技術の進歩、計量関係者の表彰などが行われます。消費者保護や公正な取引を守るという観点でも、計量制度の意義を見直す日でもあります。「100 gだから大丈夫」「1リットルだから安心」といった日常の認識を、少し丁寧に扱う姿勢を育てる機会となるでしょう。
本の日 ― 本棚が語る文化と読書の力
比較的新しい記念日ですが、11月1日には「本の日」が制定されています。
この記念日は、全国の老舗書店有志によって2017年に制定されました。数字の「1」の形を本棚や本の背表紙になぞらえ、「1=本」と見立てた語呂合わせもその由来のひとつとされています。
「世界本の日(4月23日)」とは異なり、本の日(11月1日)は日本独自の視点で、読書文化・書店の活性化を願うものです。書店でのキャンペーン、読書フェア、作家との対談イベント、読書会などが行われることがあります。
本というメディアは、知識・思想・物語を次代に伝える役割を持ってきました。デジタル化・電子書籍の普及が進む中で、本の日は「紙の本」「リアル書店」の価値を再認識する契機となります。読書を通じて人々の思考を豊かにする文化を支えるという意味で、本の日は興味深い記念日です。
まとめ:記念日の重層性と「日常の視点を変える」意義
11月1日は、灯台・点字・犬・計量・本といったテーマを通じて、光・文字・命・測定・文化という多様な側面を包み込む日でもあります。これらは一見、異なる領域のように思えますが、すべて「人間の営み」に密接に関わるものです。
- 灯台 → 暗闇に光を灯し、道を示す
- 点字 → 視覚を超えて文字を伝える手段
- 犬 → 人と動物の関係、共生
- 計量 → 信頼・公平・科学性
- 本 → 言葉・知見・物語を伝える媒体
記念日を通じて、普段見過ごしがちなテーマに目を向け、学びを深めることができます。たとえば、灯台記念日をきっかけに海洋防災に関心を持ったり、点字制定記念日を機にアクセシビリティを考えたり、犬の日を通じて動物福祉に感心を寄せたり――そんな「日常の視点を変える手がかり」にしてもらえれば嬉しいです。