建築図面の中でも「立面図」は、建物の外観を視覚的に表現する重要な図面の一つです。正面や側面から見た姿をそれぞれ「北立面図」「南立面図」「東立面図」「西立面図」として描き分けることで、建物全体のデザインや高さ、開口部の配置などを明確に伝えることができます。この記事では、これから建築を学ぶ方や図面作成に携わる方に向けて、立面図の役割や描き方、各方向別の特徴、活用方法まで丁寧に解説していきます。
立面図とは何か?
立面図とは、建物の外観を各方向(通常は北・南・東・西)から見た図を平面的に表した建築図面です。平面図が上から見下ろした形を描くのに対し、立面図は真正面から見たように建物の高さや窓の位置、外壁の素材などを正確に示します。
建築確認申請や施工、デザイン検討など、さまざまな場面で活用され、施主・設計者・施工者の間で完成イメージを共有する上でも欠かせない資料です。
立面図の目的と役割
立面図には以下のような目的があります:
- 建物の高さ関係の把握
各面の地面から軒高・建物高などを把握するために使われます。 - 外壁や開口部のデザイン確認
窓やドア、ベランダなどの位置、サイズ、バランスを確認する際に必要です。 - 建築確認申請に必要
建物が法規制(斜線制限、日影規制など)に適合しているかを確認するための図面です。 - 外構との調整
フェンスや植栽、駐車スペースなど周囲との調和を見るためにも活用されます。
北・南・東・西の立面図の違いと意味
建物を四方向から見た図面をそれぞれ作成する理由は、建物の周囲環境や太陽の動きによって外観の見え方や求められる性能が異なるためです。
北立面図
北側から見た立面図です。日本の多くの住宅では日当たりが悪くなるため、窓が少なめで、採光よりも断熱性能が重視されます。建築基準法による北側斜線制限のチェックにも使われます。
南立面図
南面は太陽の光を多く取り入れられるため、窓やバルコニーが多く配置される傾向があります。立面図でも最も開放的でデザイン性が問われる面です。
東立面図
朝日が差し込む東面は、寝室や子供部屋などに窓を設けることが多く、適度な採光設計が重要です。通勤・通学の時間帯の光の入り方なども考慮されます。
西立面図
西日は強く、夏場は特に熱がこもりやすいため、庇や植栽などで日射をコントロールする工夫が求められます。西面の立面図では、窓の位置・大きさと日除けの有無が大切な情報になります。
立面図の描き方の基本ステップ
1. 基準線を引く
最初にGL(グランドライン=地盤面)を基準にし、地面・1階・2階・屋根といった水平ラインを引きます。
2. 建物の輪郭を描く
平面図を元に、建物の外壁位置を立面図上に転記します。階ごとの高さに注意して、正確に描写することが求められます。
3. 開口部を描く
窓やドアなどの位置、高さ、大きさを正確に描き入れます。平面図との整合性が重要です。
4. 屋根や庇、装飾を描く
屋根の形状(切妻、寄棟、片流れなど)や、出窓・バルコニー・庇なども忘れずに描写しましょう。
5. 材質や色の指定
外壁材や屋根材など、仕上げの素材を記載します。実際の色やパターンは、色付きの立面図やパースで補足されることが多いです。
CADやBIMでの立面図作成
現在では、手描きではなくCAD(AutoCAD、JW-CADなど)やBIM(Revit、ARCHICADなど)を使って立面図を作成するのが主流です。BIMでは建物の3Dモデルを構築することで、自動的に正確な立面図を生成できます。
CADの場合は2Dの図面として一つ一つ描いていきますが、繰り返しの修正や整合性の管理がしやすい点が特徴です。
立面図作成の注意点
- 各立面図の整合性を保つ
北・南・東・西の図面で開口部や寸法にズレが出ないよう、寸法や位置を常に平面図と照らし合わせることが大切です。 - 高さ情報は明確に記載する
軒の高さ、建物の最高高さ、地盤面からの距離などを正確に明記します。 - 建築基準法を遵守する
北側斜線や絶対高さ制限、日影規制など、法規制との関係性を常に意識して描く必要があります。 - 周辺との関係を描く
隣地との高低差や境界、道路からの距離なども参考情報として描き込むことで、よりリアルな理解が可能になります。
立面図の活用場面
- 建築確認申請書類として提出
計画建物が法令に適合しているかを審査する際に、立面図は欠かせません。 - プレゼンテーション用の資料
施主や自治体、地域住民への説明資料として、建物のイメージを伝えるのに有効です。 - 施工現場での指示資料
サッシの取り付けや外壁材の施工、足場計画など、施工時の具体的な指示にも使われます。
まとめ
立面図は、建物の「顔」を表現する非常に重要な図面です。北・南・東・西という4方向から描くことで、建物全体のバランスや環境対応を的確に伝えることができます。描き方には一定のルールと注意点がありますが、ポイントを押さえれば、誰でも精度の高い図面が描けるようになります。CADやBIMといったデジタルツールも活用しながら、正確でわかりやすい立面図作成を目指しましょう。