ITや設備更新のプロジェクトに関わると、「要件定義書」「仕様書」「設計書」といったドキュメントを作成・確認する場面が多くあります。
しかし、それぞれの役割や違いが曖昧になっていることも少なくありません。今回の記事では、UPS(無停電電源装置)の更新プロジェクトをサンプルに、要件定義書・仕様書・設計書の違いを明確にし、それぞれのドキュメントがどのような内容を含むべきかを具体的に解説します。実務でそのまま応用できるよう、現場目線で分かりやすく紹介していきます。
要件定義書とは?~なぜUPSを交換するのかを明確にする~
要件定義書は、「なぜこのプロジェクトを行うのか」「何を達成したいのか」といった目的や背景、制約条件を明確にするドキュメントです。
UPS交換プロジェクトにおいては、以下のような背景があると想定されます。
背景の例:
- 現在利用中のUPSは導入から5年が経過しており、メーカー保証期間が終了している。
- 重要サーバーを保護している装置であり、突然の停止は業務に甚大な影響を与える。
- 電源装置の内部バッテリー劣化によるアラートが頻発している。
要件定義書に記載すべき項目:
- プロジェクトの目的:UPSの計画的な更新により、継続的な安定稼働を維持する
- 対象機器:○○社製UPS型番△△(稼働開始日:20XX年X月)
- 要求事項:電源容量は現行と同等以上、ネットワーク経由での監視が可能であること
- スケジュール要件:保証終了前にリプレース完了すること(20XX年X月末まで)
- 予算制約:XX万円以内(保守費含む)
この段階では、「どの製品を使うか」「どう設置するか」といった話はしません。あくまで“目的”と“達成すべき条件”を明確にすることがポイントです。
仕様書とは?~要件をどう満たすかの仕様を定める~
要件定義で決めた「何を実現するか」に対して、「どのような仕様のものを使って実現するか」をまとめるのが仕様書です。
UPS交換プロジェクトの場合、次のような内容が仕様書に含まれます。
UPS機器の仕様例:
- 定格出力容量:3kVA以上
- 出力コンセント:100V 20A x 4口
- バッテリー交換可能、ホットスワップ対応
- 通信機能:SNMP/HTTP対応のネットワーク管理カード搭載
- 保守期間:5年(オンサイト対応含む)
- 対応温度:0〜40℃
設置場所の仕様:
- ラックマウント対応(2Uサイズ)
- 設置場所の許容重量:20kg以下
電源条件:
- 商用電源:AC100V 単相 50/60Hz
- 停電時のバックアップ時間:5分以上(100%負荷時)
この仕様書がベンダーへの見積依頼や、機器選定時の比較基準となります。要件に対する具体的な技術的条件を記述するのがポイントです。
設計書とは?~仕様をもとにどう構築するかを図示・手順化する~
設計書は、仕様を実現するための“作業設計図”です。ネットワーク構成や接続方法、導入スケジュール、切り替え手順など、具体的な設置作業の指示を含みます。
UPS交換プロジェクトの設計書例:
1. 構成図
- 現行UPS→新UPSへの切替構成図
- 電源ラインとサーバー接続図
- ネットワークスイッチとUPSの管理ポート接続図
2. 作業手順
- 作業日:20XX年X月X日(休日作業)
- 停電予告:社内システム管理者・関係者へ3日前通知
- 現行UPSの電源断 → サーバーシャットダウン(管理者立会)
- 新UPSへの置き換え作業(設置・配線・通電確認)
- サーバー再起動 → 正常動作確認 → UPS通信確認
- 作業完了報告書を作成し、保守記録に登録
3. 試験項目
- 無負荷試験:通電・管理ポート応答チェック
- 負荷試験:サーバー稼働時の安定性、バッテリー切替テスト
- 通信確認:SNMP通信、WebUIアクセス確認
設計書は“現場で何をどうするか”を分かるように書くことが重要です。作業者が見て迷わず動ける内容にすることを心がけましょう。
3つの文書をセットで使う重要性
要件定義書・仕様書・設計書の3つは、それぞれ段階の異なるドキュメントですが、プロジェクトを成功させるためにはどれも欠かせません。
- 要件定義書:目的と条件を明確にして、関係者の認識を合わせる
- 仕様書:製品やシステムの選定基準となる
- 設計書:実際の導入・作業を滞りなく行うための手順書
特にITや設備保守では、誰か1人の属人的な判断ではなく、文書による共有と合意がトラブルを防ぎます。
まとめ:ドキュメントがあればプロジェクトは強くなる
UPSの交換は小さなプロジェクトに見えるかもしれませんが、これを丁寧に文書化することで、次回以降の資産更新にも役立つ“ナレッジ”になります。
実際の現場では、このような文書をテンプレート化しておくとスムーズです。小さな改善の積み重ねが、組織のIT資産運用の品質を高めていきます。
プロジェクトの成功のカギは、「正しく書いて、正しく伝えること」。まずは小さなプロジェクトから、ドキュメント作成を意識して取り組んでみましょう。