契約を結ぶときや、何らかの法律行為を行う際に重要となる「意思表示」。
日常生活でも「売ります」「買います」といった意思の表明が行われますが、民法上の意思表示にはどのような意味があるのでしょうか?
本記事では、意思表示の基本概念、法律上の意義、意思表示が無効や取り消しになるケース、実務上の注意点などを詳しく解説します。
法律初心者の方でも理解しやすいように、具体例を交えて説明しますので、ぜひ参考にしてください。
1. 意思表示とは?——法律行為の基本要素
意思表示とは、法律行為を行う意思を外部に表明することを指します。
民法では、契約や売買、贈与などの法律行為は「意思表示」によって成立します。
例えば、AさんがBさんに「この車を100万円で売ります」と伝え、Bさんが「買います」と答えれば、両者の合意により売買契約が成立します。
この「売ります」「買います」という言葉が、それぞれの意思表示に当たります。
法律行為が成立するためには、次の2つが必要です。
- 内心的効果意思(こうしたいという意思)
- 表示行為(実際に言葉や行動で表すこと)
意思表示がないと、民法上の契約や取引は成立しません。
2. 意思表示の要素——主観的要素と客観的要素
意思表示は、大きく分けて主観的要素と客観的要素の2つから構成されます。
① 主観的要素(意思の内容)
これは意思表示をする側の「内心の意思」を指します。
主観的要素には以下の3つが含まれます。
- 動機(意思の決定):行動を起こすきっかけ
- 効果意思:法律的な効果を発生させたいという意思
- 表示意思:それを表明する意思
例えば、家を売りたいという気持ち(効果意思)があり、それを相手に伝える(表示意思)ことで売買契約が成立します。
② 客観的要素(表現の仕方)
これは、実際に外部に示される「言葉」や「行動」です。
例えば、「車を売ります」と書面に書いたり、口頭で伝えたりする行為がこれに当たります。
この主観的要素と客観的要素が一致していることが、意思表示の有効性に関わるポイントとなります。
3. 意思表示の成立要件——どのような場合に有効なのか?
意思表示が有効に成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 意思の自由があること(強制されていないこと)
- 明確な表示行為があること(言葉や書面で伝えられること)
- 適法であること(違法行為でないこと)
- 相手方に到達すること(契約の場合、相手に伝わることが重要)
特に、相手に到達しない意思表示は原則として法的効果を持ちません。
たとえば、メールで契約の意思を伝えたとしても、相手が未読のままでは、意思表示の効力が発生しない場合があります。
4. 意思表示の無効・取り消しが認められるケース
意思表示が行われても、状況によっては無効または取り消しが可能になることがあります。
① 無効となるケース(最初から効力がない)
- 心裡留保(しんりりゅうほ):冗談や嘘の意思表示(例:「冗談で100万円の売買契約を結んだ」)
- 虚偽表示(きょぎひょうじ):相手と結託してウソの契約をする(例:「実際には売る気がないのに名義変更だけ行う」)
- 公序良俗違反:法律や道徳に反する意思表示(例:「違法な賭博契約を結ぶ」)
② 取り消しができるケース(後から取り消せる)
- 詐欺による意思表示:「偽物のブランド品を本物だと騙されて購入」
- 脅迫による意思表示:「暴力を振るわれて無理やり契約」
- 未成年の意思表示:「未成年が親の同意なしに高額な買い物をした」
このような場合、本人または関係者が取消権を行使すれば、契約を無効にすることができます。
5. 意思表示と民法の「到達主義」とは?
意思表示には「発信主義」と「到達主義」がありますが、日本の民法では到達主義が採用されています。
到達主義とは?
意思表示は「相手に届いた時点で法的効果が発生する」という考え方です。
例えば、
- AさんがBさんに契約の申込書を送った場合、Bさんが受け取った瞬間に効力が生じる。
- しかし、Bさんが開封する前でも、到達したとみなされる。
この原則は、契約トラブルを防ぐために重要な役割を果たします。
6. 実務での注意点——意思表示を正しく行うには?
法律上のトラブルを防ぐために、以下のポイントに注意しましょう。
① 書面での意思表示を徹底する
口頭だけでなく、契約書やメールなど証拠を残すことが重要です。
② 相手に確実に伝える
契約書を送るだけでなく、「届いたかどうかの確認」も忘れずに。
到達主義の観点から、内容証明郵便や電子メールの既読機能を活用すると良いでしょう。
③ 無理な契約は避ける
脅迫や詐欺に巻き込まれないよう、不審な契約には慎重に対応しましょう。
まとめ
意思表示は、契約や法律行為を成立させるために欠かせない重要な要素です。
民法では、「内心の意思」と「外部への表示」が一致することが原則となりますが、例外として取り消しや無効となるケースもあります。
また、日本の民法では「到達主義」が採用されており、意思表示は相手に届いた時点で効力を持ちます。
契約や取引を円滑に進めるためにも、書面での証拠を残し、相手に確実に意思表示を伝えることが大切です。
この記事が、民法の意思表示の理解に役立てば幸いです。