病気やけがで長期間働けなくなった場合、収入が途絶えてしまうことは大きな不安につながります。そんな時に生活を支えてくれる制度が「健康保険の傷病手当金」です。会社員や公務員など健康保険に加入している人が利用でき、一定の条件を満たすと休業中の生活費の一部を補填してくれます。本記事では、傷病手当金の支給条件、支給額の計算方法、申請手続きの流れ、よくある疑問点について詳しく解説します。
健康保険の傷病手当金とは?
傷病手当金とは、健康保険に加入している被保険者が病気やけがによって働けなくなったときに、所得の一部を補償する制度です。会社を休む間、給与が支給されない場合や減額された場合に生活を支える役割を果たします。
労災保険が「業務上のけがや病気」を対象としているのに対し、傷病手当金は「業務外のけがや病気」が対象となる点が大きな違いです。例えば、風邪やがん、交通事故など日常生活で発生する病気やけがが主な対象となります。
傷病手当金を受け取れる条件
傷病手当金を受けるには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
- 業務外の病気やけがによる療養であること
労災保険の対象ではなく、プライベートでの病気やけがが対象となります。 - 仕事ができない状態であること
医師の診断により労務不能と判断される必要があります。 - 会社を休んだ日が連続して3日以上あること(待期期間)
支給開始には「待期3日間」があり、4日目から支給されます。 - 休んだ期間に給与の支払いがないこと、または減額されていること
給与が満額支払われている場合は支給されませんが、給与が傷病手当金より少ない場合は差額が補填されます。
支給額の計算方法
傷病手当金の金額は、次の計算式で求められます。
1日あたりの支給額 = 直近12か月の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 2/3
例)標準報酬月額が30万円の場合
- 標準報酬日額 = 30万円 ÷ 30日 = 1万円
- 1日あたりの支給額 = 1万円 × 2/3 = 6,666円
- 1か月休んだ場合:約20万円の支給
このように、通常の給与の約3分の2が補償される仕組みです。
支給期間について
傷病手当金が支給されるのは、最長で「支給開始日から1年6か月」です。
ただし、1年6か月間ずっと連続して休まなくても、同じ病気やけがであれば通算して計算されます。
申請手続きの流れ
傷病手当金を受け取るためには、以下の手続きが必要です。
- 申請書を入手する
健康保険組合や協会けんぽのWebサイトからダウンロード可能です。 - 必要事項を記入する
- 被保険者本人の情報
- 勤務先による勤務実績や給与支払い状況の証明
- 医師の意見書(労務不能の証明)
- 勤務先を通じて健康保険組合へ提出
勤務先の人事や総務を経由するのが一般的です。 - 審査後、指定口座に振り込まれる
支給までには1か月以上かかることもあります。
傷病手当金と他の制度との関係
傷病手当金は他の制度と併用できる場合があります。
- 雇用保険の失業給付との関係
傷病手当金を受給中は失業給付は受け取れません。ただし、失業給付の受給期間を延長できます。 - 障害年金との関係
重い障害が残った場合は、障害年金と併用可能です。 - 労災保険との関係
業務中や通勤途上の事故は労災保険が優先され、傷病手当金は支給されません。
よくある質問と注意点
会社を辞めても受け取れる?
退職後でも、在職中に傷病手当金を受けていた場合や条件を満たしていれば継続して受給可能です。ただし、健康保険に任意継続加入している必要はありません。
自営業やフリーランスは受けられる?
国民健康保険には傷病手当金の制度がありません。ただし、一部の自治体では独自に支給する場合があります。
医師の証明が必要?
はい。必ず医師が「労務不能」と診断した証明が必要です。自己申告だけでは認められません。
傷病手当金を有効に活用するために
傷病手当金は、急な病気やけがで働けなくなった時の大切なセーフティネットです。しかし、制度を知らなかったり、手続きが遅れたりすると、本来もらえるはずの給付を逃してしまう可能性があります。
- 休職が長引きそうな場合は、早めに申請準備をする
- 医師には正直に症状を伝え、労務不能の証明を依頼する
- 勤務先の人事や総務に相談しながら進める
これらを心がけることで、スムーズに手続きを進められます。
まとめ
健康保険の傷病手当金は、病気やけがで働けなくなった時に生活を支える大切な制度です。
- 業務外の病気やけがが対象
- 支給条件は「労務不能・待期3日・給与が支払われていないこと」
- 支給額は給与の約3分の2
- 支給期間は最長1年6か月
- 医師の証明と勤務先の協力が必要
いざという時に困らないよう、制度を正しく理解し、必要に応じて活用できるようにしておきましょう。