「うまく伝えられない」「何を言いたいのか分からないと言われた」──そんな悩みを持つ人は少なくありません。実は、伝え方の本質には「抽象化」と「具体化」という二つの思考技術が深く関わっています。抽象化は複雑な情報を整理して本質を引き出し、具体化はその本質をわかりやすく噛み砕いて伝える力です。この記事では、ビジネスや日常会話で役立つ「抽象化」と「具体化」の考え方と使い方について、例を交えてわかりやすく解説します。伝える力をレベルアップさせたい方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
抽象化とは何か?
抽象化とは、複数の事象や情報の共通点を見つけ、より高い視点でまとめることです。たとえば、「カフェ」「レストラン」「ファストフード店」はすべて「飲食店」と抽象化できます。個別の名前や特徴を取り払って、上位の概念でまとめるイメージです。
この技術は、情報を効率的に整理したり、話の本質を見極めたりするときに役立ちます。抽象化された情報は、汎用性が高く応用しやすくなります。
たとえば職場で、
「田中さんは細かい部分にこだわりすぎて、作業が遅くなる」
という話が出たとしましょう。これを抽象化すると、
「田中さんは完璧主義的な傾向がある」
と要約できます。この一文で、田中さんの行動全体を俯瞰する視点が得られるのです。
具体化とは何か?
一方、具体化とは、抽象的な言葉や概念を、誰でも理解できる形に落とし込むことです。「この説明では伝わらないかも」と感じたときに、実例や数字、比喩を使って説明するのが具体化です。
たとえば、「この製品は高性能です」と言った場合、それだけでは相手には伝わりません。ここで、
「この製品は、同価格帯の他社製品と比べて処理速度が1.5倍、バッテリーが2時間長持ちします」
と具体的に伝えれば、説得力が一気に増します。
具体化のポイントは、「誰にとってもイメージしやすい例」「経験として思い浮かべやすい状況」を盛り込むことです。具体化が足りないと、話がふわっとしていて共感されにくくなります。
抽象化と具体化を使い分ける場面とは?
「抽象化」と「具体化」はどちらかだけを使えばよいというものではありません。両方を自在に使い分けることで、情報の理解と伝達が格段に上達します。
たとえば、プレゼンや企画書で使う場合、
- 最初に抽象的なテーマ(例:課題、目的)を提示し、
- 次に具体的な事例やデータで裏付ける
という流れが効果的です。
会話でも、
- 相手の話を具体的に聞く
- その話から抽象的な課題やニーズを読み取る
- 自分の提案を具体的に伝える
というように、抽象と具体を往復することで、納得感のあるコミュニケーションが可能になります。
抽象化と具体化のトレーニング方法
1. 抽象化のトレーニング
日常生活やニュース、会議で出てくる情報を「一言でまとめる練習」をしましょう。例を挙げます。
具体例:
「この店、ラーメンも餃子もチャーハンも美味しいし、値段も安くて、接客も丁寧だった」
抽象化:
「コスパが良くてサービスの良い飲食店」
このように情報を要約することで、抽象化の力が鍛えられます。
2. 具体化のトレーニング
「良かった」「すごい」「ダメだった」など、抽象的な感想を述べた後に、「なぜそう思ったのか?」を深掘りしてみましょう。
抽象的な感想:
「この本、すごく面白かった」
具体化した感想:
「登場人物のセリフがリアルで、自分の体験と重ねて共感できた。特に第3章の失敗談は、自分も同じ状況を経験したことがあるので心に残った」
このように、相手に伝わる情報量を増やすために、具体的な描写を意識して練習すると効果的です。
抽象化・具体化のバランスが悪いとどうなるか?
抽象化ばかりの場合:
話がふわっとしていて、実際に何を言っているのか分かりにくい印象になります。
たとえば「働き方改革を推進したい」と言っても、何をどう変えるのかが分からなければ、誰も動きません。
具体化ばかりの場合:
情報が羅列され、全体像が見えず、結局何が言いたいのかが伝わらなくなります。
「データばかり並べていて、結論がない」と言われるのはこのパターンです。
したがって、「抽象的な結論」+「具体的な裏付け」のセットで話すことが、伝わる話し方の基本です。
ビジネスでの応用例
上司への報告
悪い例:
「プロジェクト、まあまあ順調です」
良い例:
「スケジュール通り進行しています。現在の進捗率は85%で、残りの作業も今週中に完了する見込みです」
→「まあまあ順調」という抽象的な言い方に、具体的な数値を足すことで信頼感が高まります。
プレゼンでの構成
- 抽象:社会的課題(例:高齢者の孤独)
- 具体:現場の声、統計データ、事例
- 抽象:自社の解決策の意義
- 具体:商品やサービスの内容、導入効果
抽象と具体の繰り返しで、「わかりやすく」「共感されやすく」「説得力のある」プレゼンが可能になります。
まとめ|伝える力は抽象と具体の往復運動
「伝わらない」と感じたとき、それは内容が難しいからではなく、「抽象と具体のバランス」が悪いからかもしれません。相手が求める情報のレベルに合わせて、抽象化でまとめ、具体化で補足する。この往復運動が自然にできるようになると、あなたの伝える力は一段上のレベルに進化します。
今日からぜひ、話すとき・書くときに「今、これは抽象?具体?」「もう一段階、補足できるか?」と意識してみてください。小さな意識の積み重ねが、大きな伝達力の違いを生み出します。