近年、「夢のエネルギー」と呼ばれる核融合が再び注目を集めています。核融合は太陽が光り続ける原理であり、膨大なエネルギーを生み出す仕組みです。もし人類がこの技術を実用化できれば、石油や天然ガスに依存しないクリーンで安全なエネルギー源を手に入れることができます。しかし、実現には多くの技術的な課題も残されています。この記事では、核融合の基本的な仕組みから、世界で進む研究、そして実用化に向けた課題や将来展望について、わかりやすく解説していきます。
核融合とは、軽い原子核同士が融合して、より重い原子核に変わる際に莫大なエネルギーを放出する反応です。太陽や恒星の内部では、水素の原子核が融合してヘリウムになる過程でエネルギーが発生し、そのエネルギーが光や熱として宇宙に放たれています。
地球上で人類が核融合を再現しようとする場合、主に「水素の同位体(重水素と三重水素)」を燃料とします。これらを高温・高圧の状態にして核融合反応を起こすことで、大量のエネルギーを取り出せると期待されています。
一般的に「原子力発電」と呼ばれているのは、ウランやプルトニウムの原子核を分裂させる「核分裂発電」です。これに対して核融合は逆の現象であり、軽い原子核を融合させます。
核分裂と核融合の主な違いは以下の通りです。
核融合を起こすためには、非常に高い温度と圧力が必要です。太陽内部では数千万度の温度と強大な重力によって核融合が自然に発生しています。しかし地球上では、人工的にこれを再現しなければなりません。
核融合に必要な条件は「ローソン条件」と呼ばれ、以下の3つの要素で構成されます。
この3つの条件を同時に満たすことが、核融合発電の最大の課題となっています。
核融合の実現に向け、現在は大きく分けて2つの方式で研究が進められています。
磁場を利用してプラズマを閉じ込め、核融合を維持する方法です。代表例はフランスで建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)です。ITERは世界30カ国以上が参加する巨大プロジェクトで、2025年以降に実験開始を予定しています。
高出力レーザーを燃料ペレットに照射し、一瞬で高温高圧状態を作り出す方式です。アメリカのローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)の「国立点火施設(NIF)」では、2022年に世界初となる「核融合で得られるエネルギーが投入エネルギーを上回る成果」が報告され、大きな話題を呼びました。
核融合研究は国際的な協力によって進められています。
核融合が実現すれば、人類のエネルギー問題に大きな解決策を与えると期待されています。
一方で、核融合発電の実用化には多くの課題が残されています。
核融合は「あと30年で実用化」と言われ続けてきましたが、近年は本当に手が届くところまで来ていると考える専門家も増えています。もし実用化されれば、世界中のエネルギー供給が一変し、電気料金の安定化や温暖化対策に大きく貢献するでしょう。さらに、水素社会との相乗効果により、クリーンエネルギーの未来を切り開く可能性があります。
核融合は、太陽のエネルギーを地球上で再現しようとする壮大な挑戦です。燃料が豊富で環境負荷も小さいため、実現すれば人類にとって理想的なエネルギー源となるでしょう。しかし、実用化にはまだ時間と技術開発が必要です。
それでも、世界中の研究者や企業が挑み続けていることから、私たちが生きている間に「核融合発電所」が実際に稼働する日が訪れる可能性は十分にあります。未来の社会を支えるエネルギーとして、核融合の動向から目を離すことはできません。