契約や法律行為を行う際、人は自由な意思に基づいて決定を下すべきです。
しかし、もし「脅迫」によって意思表示がなされた場合、その契約や法律行為は有効なのでしょうか?
日本の民法では、「脅迫」による意思表示について明確な規定を設けています。
この記事では、民法における脅迫による意思表示の扱い、無効や取消しの違い、そして具体的な判例を交えながら詳しく解説します。
脅迫とは、他者に対して害を加えることを示唆し、相手に心理的圧力をかける行為を指します。
例えば、「契約しなければ家族に危害を加える」と言われた場合、脅迫と判断される可能性があります。
日本の民法第96条では、脅迫による意思表示について以下のように規定されています。
第96条(詐欺または脅迫による意思表示)
① 詐欺または脅迫による意思表示は、取り消すことができる。
② 相手方に対する意思表示が第三者の詐欺によるものである場合において、相手方がその事実を知り、または知ることができたときも、取り消すことができる。
この規定から、脅迫によって行われた意思表示は「取り消すことができる」ことが分かります。
つまり、脅迫があったと認められれば、被害者は後から契約を取り消すことが可能なのです。
脅迫による意思表示は、法律上「無効」ではなく「取消しの対象」です。
「無効」と「取消し」の違いを理解しておくことが重要です。
無効な法律行為は、最初から法律上の効力を持ちません。
例えば、意思能力がない者(幼児など)の契約は無効です。
取消しの対象となる法律行為は、一旦は有効とみなされるものの、後から取り消すことが可能です。
脅迫の場合、被害者が契約を取り消せば、遡って無効になります。
ポイント:
裁判では、以下のような要素がある場合に「脅迫」と認定されやすくなります。
「お前の家を燃やすぞ」「会社を潰してやる」といった発言は、脅迫に該当する可能性があります。
脅迫は、実際に加害行為が行われなくても、被害者が恐怖を感じることで成立します。
例えば、「契約しなければ家族を傷つける」と言われ、やむを得ず契約を締結した場合、脅迫に該当します。
ある会社の社長が「辞めなければ家族をどうなるか分からないぞ」と従業員に迫り、退職届を書かせた事例がありました。
裁判では、この退職届は脅迫による意思表示と認められ、取り消されました。
貸金業者が借主に対し、「返済しないと痛い目に遭うぞ」と脅した場合、借主が怖がって契約を結んだとしても、その契約は取り消すことが可能です。
もし脅迫による契約を結んでしまった場合、以下の手順で契約を取り消すことができます。
録音、メール、LINEのやり取りなど、脅迫の証拠を確保しましょう。
法律の専門家に相談し、どのように契約を取り消すかアドバイスを受けましょう。
契約の相手方に対し、「脅迫により契約を締結したため、取り消します」と書面で通知します。
相手が契約の取消しに応じない場合、裁判で取り消しを求めることが可能です。
脅迫を受けて契約を強要された場合、適切な手続きを踏めば契約を取り消すことができます。