会社や個人事業で設備投資を行う際、建物・車両・備品などの「固定資産」は避けて通れない存在です。これらの資産は、購入時にすぐに費用化されるのではなく、減価償却によって複数年に分けて費用計上されます。
本記事では、固定資産の購入から仕訳処理、減価償却、そして売却や除却時の対応まで、簿記初心者でもわかるようにやさしく解説します。税務と会計の違いにもふれながら、実務に役立つ知識を整理しましょう。
固定資産とは、長期間にわたって事業に使用される資産のことです。具体的には、以下のようなものが該当します。
税務上は「取得価額が10万円以上かつ1年以上使用する見込みのある資産」を固定資産として扱います(※少額資産の特例あり)。
固定資産を購入した場合、費用ではなく資産として仕訳します。以下は主な例です。
(借方)建物 10,000,000円 現金 10,000,000円(貸方)
※建物と土地を一緒に購入した場合は、それぞれの金額を按分して仕訳する必要があります。土地は減価償却しません。
(借方)車両運搬具 3,000,000円 現金 3,000,000円(貸方)
※自動車取得税や登録手数料などの付随費用も取得原価に含めます。
(借方)備品 150,000円 現金 150,000円(貸方)
10万円未満であれば、「消耗品費」で処理しても構いません。
減価償却とは、固定資産の取得費用を耐用年数にわたって分割し、毎期の費用として計上していく会計処理です。
減価償却を行うことで、以下のようなメリットがあります。
日本の会計基準や税法では、主に以下の方法が用いられます。
毎年、同じ金額を償却します。
計算式:
(取得価額 − 残存価額)÷ 耐用年数
例)取得価額100万円、耐用年数5年、残存価額0円の場合:
100万円 ÷ 5年 = 毎年20万円償却
初年度に多く償却し、年々少なくなっていく方法です。中小企業の税務上はこちらが多く採用されます。
計算式:
未償却残高 × 償却率
税務申告の際には、「定率法から定額法への変更届出書」が必要な場合があります。
(借方)減価償却費 200,000円 (貸方)減価償却累計額 200,000円
「減価償却累計額」は固定資産の帳簿価額を減少させる「評価勘定」です。
資産名 | 耐用年数 |
---|---|
建物(事務所用) | 50年 |
車両(営業用) | 4〜6年 |
備品(パソコン) | 4年 |
備品(机・椅子) | 8年 |
※法定耐用年数は国税庁の「耐用年数表」に基づいて判断します。
帳簿価額よりも高く売れた場合は「固定資産売却益」、低い場合は「売却損」として処理します。
例:帳簿価額50万円の車両を60万円で売却
(借方)現金 600,000円 (貸方)車両運搬具 1,000,000円
減価償却累計額 500,000円
固定資産売却益 100,000円
除却損として一括で損金処理します。
(借方)減価償却累計額 600,000円 (貸方)車両運搬具 1,000,000円
除却損 400,000円
中小企業には、一定要件を満たせば30万円未満の資産を一括で経費計上できる「少額減価償却資産の特例」があります。
要件:
この特例は、資産台帳に登録しながらも、帳簿上は即時償却となり、税務上の管理が簡易になります。
固定資産の適切な管理のためには、「固定資産台帳」の作成が推奨されます。
記載内容:
台帳管理を行うことで、会計監査や税務調査時の対応もスムーズになります。
固定資産の会計処理は一度覚えてしまえば難しくありませんが、購入時の仕訳、減価償却の適用、そして売却・除却までを一貫して適正に処理することが重要です。
また、税務上の特例制度をうまく活用すれば、キャッシュフローを有利に保つことも可能です。経理や個人事業主の方は、固定資産台帳とともに、日々の管理をしっかり行いましょう。