「ないことを証明する」のは簡単そうで実は難しい――そんな経験はありませんか? たとえば、「テレビのリモコンがどこにもない!」「在庫がもうないはずだけど、本当に全部探し尽くしたの?」など、日常生活でも「ない」を証明する場面が頻繁に訪れます。本記事では、論理学的な手法(背理法、全数調査、対偶)を活用して、日常場面で「ない」ことを上手に証明する方法と、相手を納得させるためのコツを具体例とともに解説します。
「ある」ことを証明する場合は、目に見える形で何かを提示すれば簡単に証拠になります。たとえば、「机の上にペンがある」と証明するには、ペンを実際に見せれば一目瞭然です。一方で、「机の上にペンがない」を証明するには、机の上のあらゆる場所を調べ、確かにペンが存在しないことを相手にも納得してもらわなければなりません。
さらに、もしも机の下や引き出しの中、近くの棚など、あらゆる可能性を示唆されると、「本当に調べ尽くしたのか?」と相手から疑いをかけられることも。範囲が広がるほど証明は大変になっていきます。こうした理由から、「ないことを証明する」のは一層難易度が高いのです。
背理法とは、「もし“ない”が嘘(つまり“ある”)ならば矛盾が起こる」というアプローチを使う方法です。論理学や数学の世界でよく使われますが、日常のちょっとした場面でも応用できます。
あるとき、家の中でテレビのリモコンがどうしても見つからない状況を考えます。「リモコンがどこかにあるはずだ」と仮定し、リモコンがある状況下では何が起こるのかを逆算してみるわけです。
このように、「もしあるならば、ここにあるはず」「ここにもあるはず」と場所を一つずつ検証していき、すべてが空振りに終わった段階で「やはりない」と論理的に示せます。背理法のポイントは、相手と一緒に「もしあるならここに違いない」という可能性を潰す作業をするところにあります。それをくまなく行っても一切痕跡が出てこないため、「じゃあ本当にないんだね」と納得を得られるのです。
「ない」を証明するシンプルな方法の一つが、全数調査(網羅的アプローチ)です。範囲が明確に区切られている場合、そこをすべて調べて証拠をそろえれば「確かにない」と言いやすくなります。
朝、家を出ようとして「鍵がない!」と焦った経験は誰しもあるのではないでしょうか。そこで、「家の中のどこにも鍵がない」ことを証明しようとするなら、まずは次のように範囲を定めて網羅的に探します。
ただし、注意したいのは「本当は調べ忘れた場所があった」という落とし穴です。全数調査は単純ながら、範囲の抜け漏れがあると途端に説得力が失われるので、可能な限り漏れをなくす工夫が必要です。
対偶の論法は、「もしPならばQ」という命題があるとき、「QでないならばPでない」も真である、というロジックです。日常では、「もしお金があれば“レシートや通帳記帳などの形跡”があるはず。形跡が一切見つからないということは、お金がないに違いない」といった示し方ができます。
ここで「いや、現金ではなく電子マネーで払ったかもしれない」という反論が出てくることも考えられます。その場合は「電子マネーの支払い記録も確認する」という形で、さらに論証範囲を広げる必要があります。対偶の論法は「もし〇〇があれば△△が起こるはず」という因果関係が明確だと威力を発揮しますが、因果関係に抜け穴があるとそこを突かれる可能性があるので注意が必要です。
理論的には背理法や全数調査、対偶などの手段を使えば「ない」ことを示しやすくなりますが、実際に人を納得させるには、もう少し工夫が必要です。
「家じゅうを探した」ではなく、「この部屋のこの棚から順に、隅々まで探した」というふうに、どの範囲を探したのかを具体的に示すと相手にイメージが湧きやすくなります。「会社の書類を全部探した」なら、どの部署・どのキャビネット・どのファイルをチェックしたか一覧を見せるなど、可視化すると説得力が増します。
「私が探した」というだけでは、相手が「見落としがあったのでは?」と疑うこともあるでしょう。そこで「同僚にも確認してもらった」「カメラの録画を調べた」「他の家族もリモコンを探したが見つからなかった」のように、複数の視点や客観的な資料があると安心材料になります。
論理的な手順をいきなり提示しても、相手が「理屈っぽい」「難しい」と感じるかもしれません。まずは相手が「どうして“ない”と感じられないのか」「何を根拠に“ある”と思うのか」をしっかりヒアリングするのがおすすめです。その上で「では、もし本当にあるとしたらどこで見つかるはずか?」という背理法的な問いかけをしながら、一緒に検証していくと相手の納得感は高まります。
「ない」ことを証明するのは、「ある」ことを証明するより手間がかかり、説得力を得るのも難しいものです。日常生活でも、リモコンや鍵、お金、在庫の有無など、さまざまなシーンで「ない」を示す必要に迫られることがあります。そんなときに役立つのが、以下のポイントです。
これら論理的手法と併せて、探す範囲を明確にし、客観的な証拠や第三者の確認も加えると、より強い説得力を得られます。さらに、コミュニケーションの際には相手がどんな懸念を抱いているかを丁寧に聞き出し、可能性を一緒に検証していく姿勢を取ると、スムーズに「ない」という結論に同意してもらえるでしょう。
日常の些細な「ない」をめぐるトラブルや不安も、正しい手順を踏んでしっかり証明すれば解消しやすくなります。ぜひこの記事を参考に、身近な場面で活用してみてください。